Act04: 布石: section01

接触子

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    EDEN/G-7
      カナン
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カナンの一角にある
こじんまりとしたショット・バー
シナイ…。

シェーカーが
ひとりで切り盛りするそのバーは
エデンで唯一のバーだった。

そこで僕は…。

〝あの作品のことは
 もう深入りするな〟

畠さんのそんな一言に
僕は思わず
スツールから立ち上がっていた…。

「……」

胃の中が
きりきりと熱い…。

「……」
畠さんは
それきり黙っている…。

「畠さん。わからない。
 それじゃ…。僕は…」

僕は何とか食い下がろうと
畠さんに言った…。

「僕は
 作品の出所が聞きたくて…。
 畠さん」
「……」

それでも畠さんは
マゼンタのグラスに
視点を落としたまま
僕に振り向きもしない。

「畠さん!」

タン…!

僕は手にしたままのグラスを
カウンターに勢い良く置いた。

…クリムソンが。
テーブルに飛び散った…。

「……」

だが
畠さんは何も言わない。
身動きの一つもしないのだ。

「畠さん!」
「………」

「…~~~…」
…かた…ん…。

僕は
スツールに腰を下ろした。

こうなったら
いくら声をあげようとも
応える畠さんではないのだ…。

僕は黙った。
少しの間沈黙が続く…。

クリムソンを煽ってから
もう一度畠さんを見た…。

「……」
畠さんが反応しない…。

それは
いつもの畠さんのポーズ…で。

「…?」

だが僕はそれが
いつもとは
違う様子であることに気がついた。

なぜなら身動きはおろか
瞬きさえもしないからだ…。

「畠さん…?」
僕はもう一度声を掛けた。
「………」
応えない…。

「畠さん」
僕は手を伸ばして
畠さんの肩をつかんだ。
「……」
それでも反応がない。

「畠さん!」
僕は
畠さんの体を
こちらに向かせようと
掴んだ手に力を入れた。

畠さんの体は少し起き上がって…。
…だが…。

ぐらり…。

そのまま。
スツールの向こう側に
ずれかけてしまった。

「っ……」
僕はあわてて立ち上がり
畠さんの体を抱える様にして
スツールに戻した…。

「…ん…」
「…お…?ん…?」
「畠さん?」
「ん?あ…トモ…?どうした?」
「ど…どうしたじゃない。
 そっちが急に
 動かなくなって…」

「ああ…。そうか…。ああ」
「なんだよ…?なに…」
「ああ…。ここんとこ。そう。
 2、3日…」
「そ…そうってなに…?」
「ああ。意識が途切れる。
 一瞬ね」

「な…んだよ。それ?」
「知らん」
「し…知らないって…。
 ヒーリングセンター
 …行ったの…かよ?」
「行かんよ。あんな所は」

「…で…も…だって…。
 意識が途切れる…なんて…」
「あんな所に行って。
 脳みそいじくられるなんぞ。
 性に合わん」
「脳みそって…。
 限んない…だろ…?」

「限っているのさ」
「どうして?」

「…。聞きたいのか。おまえ。
 本当に?」
「…なに…を…だよ…?」

「おまえの作品が。漏洩した理由」
「!知ってるのか!やっぱり…!」
「…。具体的な事実関係は知らん」
「……」
「だが。俺なりの推論でね」

「推論?」
「……」

畠さんはまた黙った…。

「畠さん」

「…話しておくのも
 いいかも知らんな。
 まあ。そのつもりが
 なかったとは言わん。
 話の流れ次第では」

会所で見せる顔とは
また違う厳しい顔つきで
畠さんは
マゼンタのグラスを傾けた…。