Act02: 神威: section06

風景Ⅲ

”ええ~っっ。これ。
 HSLなのぉぉぉっ”

「っ……」
…と…。

僕の耳にいきなり
声が飛び込んできた…。

…あ…びっくりした…。

どうやら
ライナーに一緒に乗り込んだ
二人連れの
女性の方の声…みたいだ…。

「……」
…あ…ぁ…チップ…を
入れないと…。

チップ…チップ…。
ジーンズのポケットを探る……。

「……」

…ん…?
れ…?
あ…今さっき…また…。
…何か……。

何…考えて…た…?

…あ…。
チップを…。
チップ…。

「……」

僕はポケットから
チップを一枚取り出して
ドア口のソーサーに入れた…。

…かしょ…。

「……」

…何だった…ろう……?
何を…考えて…た…?

…かしょかしょ…。
かしょ……。

…チップが…。
ソーサーから落ちて行く…。

よくあるんだよな…。
…こういうこと…。

さっきも……。

かしょかしょ…。
…かしょん…。

…あぁ…だから…。
それは…。
辿らない方が…いい…って……。

♪ シャラララララ・フウフウ ♪
♪♪ シャラララン・フウフウ ♪♪
♪♪♪ シャラララン・ラルラ ♪♪♪
♪♪♪♪ シャラララ・ラン ♪♪♪♪
  — お心に感謝します—

– アッパー・クラスを認識しました –
– そのままご利用ください –

クラスチップが認識された…。

「……」
僕は軽く息を吐いて
近場のシートに腰をおろした。

”どぉしよぉ。どぉしよぉ…。
 あ~ちゃん……。”
”どうしようって言っても。
 みんみん……。”

二人連れの声がする…。

”降りる?降りられる?ねぇ…?”
”無理だよ。もう。
 走っちゃってる…。”

…やっぱり…。
誤乗車だったのか…。

”えぇ~ん…。”

二人連れの頭髪色は
男が緑で女が黄…。

つまり…。
ミッドル・クラス…。

”間違っちゃたんだから。
 しょうがないよ。みんみん。
 誰も咎めないって…。”
”でもぉ…。きちんと決まりを
 守る人が。善い人だってぇ…。”

ライナーには
HSLとLSL の2種類が
あって。

一般的にミッドル・クラスは
LSLを使うことになっている…。

”まあ。そうだけど…。
 いいじゃないか。みんみん。
 〝寄付〟できるよ。”
”あっ。そうか。そぉだよね。
 そう考えればいいんだぁ。
 あ~ちゃん。かしこぉ~い。”
”へへ~。そぉかなぁ~。”

 きゃらきゃらきゃら…。
 きゃらきゃらきゃら…。
 きゃらきゃらきゃら…。
 きゃらきゃらきゃら…。

ミッドル・クラスが
HSLを利用する場合、
LSLに乗る場合の
倍以上のクラス・チップを
ソーサーに入れなければならない。

だがその。
通常よりも余分に入れたチップは。
〝寄付〟…として。
認められることになっているのだ。

寄付
寄付とは
他に対する
私的な供給のことを言う。

それは
エデンにおける
自己犠牲の信条を現す
最も崇高な行為であり。

エデンと
EDENの神に対する
感謝の心の現われである。

寄付は
〝善い行い〟として
個人のポイントに加算される。

それは
感覚検査実行時に
個人の得点に
計上されるものである。

『知識』より

つまり
〝寄付〟を行えば
〝善い行い〟としてポイントされ。

そのポイントは
年2回の検査の時に
得点として加算される…。

そしてこの
〝寄付〟も含めた
〝善い行い〟とされる項目は。

ロア・クラスに行くほど
たくさん設けられていて…。

だからロア・クラスほど
〝善い行い〟をする機会が
たくさんあるということになる…。

それはロア・クラスに対する
〝配慮〟ということ
らしいのだが…。

”あ~ちゃん。
 2個でいいんだよね。”
”うん。そう。
 いつもより倍以上だから。”
”あ…じゃあ。3個でもいいの?”
”いいんだよ。余裕があれば。”

”みんみん。ない。2個しか。”
”僕もない。いいよ。それだって。
 いつもよりは〝2倍〟だもの。”
”そぉだよね。うんと。じゃあ…。
 2倍の〝善い行い〟
 したことになる?”

”う~ん…。それはちょっと…。
 違うような気がするなぁ~…。”

…違うだろ。
おもいっきり。

”あっ。あ~ちゃん。みんみんね。”
”なに?”
”ポイントたまった。
 10点になった。”
”お。やったな。みんみん。
 じゃあ。今度の感覚検査は
 楽勝だね?”

”うん。もしかしたら。みんみん。
 あ~ちゃんとおんなじクラスに
 なれるかも。”
”そうか。そうしたら。
 結婚できるね。”
”結婚…。みんみん。
 あ~ちゃんと。結婚したい。”

…良かったね…。
結婚でもなんでもしてく…。
…っと…。
あぁ~また…。
会話を聞いてしまっていた…。

…はぁ~…。
そんな場合じゃ…。

— ポーポーポーポー —
— 次は D-6に止まります —

あ…。
…D-6…?
…そうだ。
そんな場合ではない。

僕は会所に
呼び出されている身分なのだ…。

…降りなきゃ…。

僕は立ち上がり。
車内のゲート・プレートに
足を乗せた…。

グウゥゥゥーン。

ホームに入る瞬間に
感じる…圧迫…感…。

…がっくん…。

ライナーが止まった…。

ぷしゅー。
ドアが開く…。

かつん…。

僕は
ホームに足を踏み出した。

それから
地上に出るエレベータに向かった。