ここでもう一匹の猫の話をする。
病と共に暮らしていく中で
私の支えとなってくれた存在。
山から連れてきた猫が
事故で逝ってしまってから
約1年後のこと。
可愛い鳴き声の野良猫が
私の前にひょっこり現れた。
柄が変わっていて
なんとなくまだらで。
きれいとは言えない
模様だったけど
顔はとてもかわいかった。
前の猫の餌が残ってたので
あげると喜んで食べた。
水もあげてみた。
私は、もうその日のうちに
家に招き入れようとしたけど。
猫は、そこは用心深く
すぐには入ってこなかった。
でも
この家と私は安心…と
理解してくれたのか。
だんだん家の中に
入ってきてくれるようになった。
最初は滞在時間も短かったけど。
徐々に伸びていって
ついにはうちの住人となった。
この猫がとても長生きだった。
前の猫が12年目で事故に遭って
突然いなくなってしまったから。
今度はちゃんと
最期まで看取りたいと思ってた。
出会った当時
父も母もまだ存命だったけど。
いずれ、父が亡くなり
母が亡くなり──。
ついに家族は
その猫だけになった。
病気の症状が辛いときも
猫の面倒をみることだけは
欠かさなかった。
死にたいと思っても
猫を思えば
生きようという気持ちにも
なった。
月日が経って
猫は推定20歳を超えていた。
それでも、元気で自分で歩き
ベッドに飛び乗り
また飛び降りていた。
それが、ある日を境に
食べることをしなくなって。
何を口の前に持っていっても
口を開けなかった。
水も飲まなくなってからは
ほとんど動かなくなった。
それから2日後くらいに
猫は旅立ったのだけど。
あの旅立ちを思い出すと
今でも泣けてしまう。
本当によく生きてくれた。
きっと
前の猫の分まで
生きてくれたに違いないと思う。
ベッドに横たわり
動けなくなっても
ずっと呼吸をしてた。
その状態で
まる一日を生き抜いた。
翌日には
呼吸が途切れ途切れになって。
ハッ、ハッと間欠的な
呼吸になって…。
やがて止まった
…ように見えた。
私は、猫の手を握って
猫の名前を呼びながら
死んだの…?
と、一言つぶやいた。
そうしたら、なんと…!
猫が
手を握り返してきた…!
その瞬間
私は泣きながら叫んでた。
「私の愛を全部上げるからねー!」
その声は届いたのか。
届いたと思いたい。
握られた猫の手から
力が抜けた。
もう動かなかった。