第7章: 黒いにゃんこの唄: 小章2

猫が逝った夜

両親との再同居から2年目の夏。

ある夜、電話が鳴った。

出てみると近所の奥さんで
明らかに声が上ずってた。

告知

私は、胸に少し
不安が広がるのを感じながら
話の続きを待った。

すると
「猫ちゃんが
 猫ちゃんが…
 ひかれて…
 倒れたままになってる…」と。

私は胃袋が
喉から
這い上がってくるのではないか。

そんな強い衝撃を受けた。

でもまだ
姿を確認したわけではない。

電話で
「すぐいきます」
と答えて
事故の現場に行った。

家から
さほど離れていないところに
猫は横たわってた。

私は、猫の名前を叫びながら
駆け寄った。

突然のことで
世界の終わりが来たと思った。

信じたくなくて

一見すると
寝ているようにも見えた。

形はきれいに残ってたから。

さわると
まだ少しぬくもりがした。

死んでないと思いたかった。

でも、たくさんの血が
猫の頭の周りに広がってた。

明らかにもう死んでるのに
私は諦められなかった。

病院に連れて行く…といい出した。
それを止める人はいなかった。

そればかりか
猫を轢いてしまった人が
その場にまだいてくれて
私が連れていきます!
と言ってくれた。

どこかの家の人が
段ボールを用意してくれた。

私は家から
古いバスタオルを持ってきた。

それに猫をくるんで
段ボールに入れて。

その方の車の
後部座席に乗せてもらった。

その方は運転中
どうしよう、どうしよう…
と言ってた。

猫を轢いたことに
その人も気が動転してて
そして、後悔とか自責の念が
湧き上がって来てたのだと思う。

私は、その人を
責める気にはならなかった。

猫を
家の外に出してた自分の責任
…だと思ったから。

だから
その人にもそう言った。

ただ
猫に可哀想なことをした…
という思いばかり募っていった。

猫を撫でながら
ごめんね、ごめんね…と
言って泣いた。

病院は遠く
車で30以上はかかったと思う。

夜遅い時間だったけど
獣医さんは丁寧に応対してくれた。

猫の状態を見てすぐに
もう死んでいるとわかったはず…。

でもそれをはっきりとは言わず
「もう
 体が硬直し始めていますね」
と静かに言った。

そして、私が泣き出すと
「耳からね
 血が出ているでしょう?
 頭を打ったのだと思います」
と続けた。

私が
「苦しまないで
 逝ったのでしょうか?」と
聞くと
「ほぼ即死だったと思います」
と答えた。

そこでまた、私は泣き出したけど。

獣医さんは、そんな私を
すぐに追い返そうともせず
私が動けるようになるまで
待っていてくれた。

帰りも
送ってくれた人の車で帰ってきた。