引っ越しが決まり
荷物をまとめ
プレハブの準備が
進んでいく中で。
最後の最後まで
悩み続けたことが
ひとつだけあった。
猫のこと
それは
猫を連れて行くかどうか
ということだった。
うちの猫は
自然と共にある暮らしの中で
完全に自由に生きてきた猫。
それはいわゆる
「家猫」ではなく
〝山の住人〟とでも呼ぶほうが
しっくりくるような存在だった。
引っ越し先は
田舎ではあったけど
住宅地であることに
変わりはなく…。
ある程度の車通りもあれば
人の気配もある場所。
山での暮らしのようには
行くはずはないだろう。
そんな
今までとは、全く違う環境で
うちの猫が果たして
穏やかに暮らしていけるのか?
もし
環境の変化に耐えられず
ストレスで弱ってしまったら?
あるいは
事故に遭ってしまったら──?
そんな想像ばかりが
頭の中を巡った。
「連れて行かないほうが
猫にとって幸せなんじゃないか」
とすら思い詰め
どうしようもなく苦しかった。
でも
やっぱり一緒にいたい…。
勝手な想像だとは
わかっていても
猫もまた
そう望んでいるように思えて
ならなかった。
だから
連れて行くことに決めた。
猫強し!
引っ越しの移動中は
パニック状態。
車の中で落ち着かず…。
鳴き続ける姿を見るのは
本当に気の毒だった。
こんな思いをさせてまで
連れてくるべきだったのかと
何度も心が揺れた。
でも、新しい家に到着し
「今日からここが
私たちの新しい家だよ」
と話しかけたその瞬間──。
まるでその言葉の意味を
理解したみたいに。
猫は静かに辺りを見回し
それから用心深く
でも落ち着いた様子で
プレハブの周りを歩き始めた。
そして
たまたま家の敷地内に
遊びに来ていた
他所の猫と遭遇して。
ぎゃーっとひと鳴き
追い払ってしまった。
私の中にあった迷いが
ほぅっとほどけていくのと同時に
猫強し!という感動が湧いた。
うちの猫は
やっぱりただの猫じゃない。
この人生を共に歩いてくれる
もうひとつの〝魂〟なんだ。
そう心の底から思った。