第5章: 宇宙からの贈り物 ~山との暮らし~: 小章9

風を感じて

山暮らしの途中で
単車の免許を取った。

19歳のとき
単車の免許を取るために
教習所に通っていたけど…。

教習とは
関係ないところで事故に遭い
教習は
リタイアせざるを得なかった。

だから
免許取得は
そのリベンジでもあった。

中型免許を取ることにしたけど
教習用の単車は400ccで
私には大きすぎた。

センタースタンドが
かけられないとか。

倒れたら起こすのに
とても苦労したとか。

大変な思いはしたけど。
それでもなんとか
課題をこなしていった。

だから晴れて合格発表で
自分の名前が呼ばれたときには
嬉しさのあまり泣いてしまった。

教習所の先生が
今どき
合格して嬉しくて泣くなんて
珍しいけど
見ると、清々しいものだね、
と言ってくれた。

愛車

200ccの
オフロード車を買った。
中古だったけどいいマシンだった。

運転技術は正直まだ
下手だったけど。

それでも乗るたびに
過ぎる風が、エンジン音が
心地よく私を包んでいった。

そんなある日。

とある道を
走っていたときのこと。

ヘルメット越しに
感じる風圧と
体にかかる G の心地よさ。

エンジン音の響きと共に
大きなカーブを走り抜けた時。

それまで
体験したことのない
歓びのようなものが
全身を走り抜けた。

その瞬間
「生きててよかった!」

……心の奥から湧き上がった
ひとこと。

それは
言葉というよりも
命そのものの実感だった。

気持ちいいという一言では
表せない感動。

単車の免許を取って
本当に良かったと思った。

ライダーズ

その他にも
富士一周をしたり
ショートコースなら
山中湖一周コースを楽しんだ。

見知らぬライダーと
並走したこともある。

競争したこともあった。

ライダーならではの
楽しみ方を
たくさん学んで経験した。

本当に心地のいい時間だった。

でも…。

この夢のような日々に
突然終わりが訪れる。

山を離れ、親と
再同居することになるのである。