山の暮らしで
避けて通れないのが
虫と獣たちとの距離感だった。
もともと
虫は苦手な方だった。
特に長いやつ
足がないやつ
足が多いやつは
名前を口にするのも嫌なほど…。
でも気づくと
いつの間にか部屋に
落ちていたりしてた。
慣れは恐ろしい…
ただ、山にいるときは
不思議と少し平気になっていた。
完全に
慣れたわけではないけど
見つけたら
淡々と外に逃がす。
そんなふうにするのが
いつの間にか
当たり前になっていた。
ヘビは
虫よりはまだ平気だったけど
ある日
こたつの布団をめくったら
中でヘビが伸びていた。
さすがに、それには
ぎゃーっとなった。
手で掴むのは嫌だったので
火箸でつまんだら
巻き付いてきた。
またギャーッとなって
思わず火箸ごと外に捨てた。
あの、手に伝わる重みは
今でも忘れられない。
獣と出会うこともあった。
直接対面することは
少なかったけど
気配や痕跡を
見かけることはあった。
たとえば地面に
穴が掘られていたことがある。
イノシシの仕業のようだった。
熊の話も聞いたけれど
幸運にも出会うことはなかった。
鹿一家との遭遇
一番印象に残っているのは
ある夜の鹿との出会いだった。
車を走らせていたとき
鹿の家族に出会った。
最初に姿を見せたのは
たぶん父親鹿だった。
道路の端に立って
こっちをじっと見ている。
ヘッドライトの光を受けて
その目は緑色に光ってた。
やがて
母親らしき鹿と子鹿が
静かに道を渡っていく。
父親鹿は
その間ずっと動かず。
こちらに
一歩も動くな!
…と言わんばかりの
気配を放ってた。
そして家族が
渡り終わるのを見届けてから
ようやく父親鹿も
ゆっくりと道を横切っていった。
私は車を停めて
ただそれを
見守ることしかできなかった。
その時、私はわかった。
人間という動物は
大自然において
ヒエラルキーの最下層なのだと。
……そういえば
忘れちゃいけないのが
うちの猫だ。
結局一番の獣は
うちの猫だったのかも
しれない(笑)。