序章: 重たい幕開け: 小章1

泣かない子

1963年の寒い日の朝。
私は東京に生を受けた。

詳しくは聞いていないのだけど
危険な出産だったらしい。

父は当時警察官だったので
私が生まれた時期は繁忙期で
休みは取れなかったはず。

母は
ひとりで心細かっただろうか
…と今なら思えたりもする。

幼少期は気弱で
よく近所の子供達から
仲間外れにされ
家に帰ってきた。

ある時
家の細い廊下で泣いていると
母が私を怒ったことを思い出す。

それが私の一番最初の記憶…。

それ以降
私は泣かない子供になった。

子供心にも
泣くことは悪いことと思ったのか。

いやそれより
母の機嫌を損ねることが
怖かったのかもしれない。

母は
いつも怒っていた
…という印象が強い。

私が何をしても怒った。

虐待を受けていたのである。
父はそれを知らない。

ただ、父には
幼少期の頃
遊んでもらった記憶があって。

その頃は
私にとって
たしかにやさしい父だった。

でも
その関係は
大人になるにつれて
変わっていった。

それから
家は遠かったけれど
いとこの家に行くと
よく遊んでもらってた。

その優しいいとこが
あの頃の私にとって
ささやかな
心の支えになっていた
…気がする。