act01: 原点: sec10

論争

アリオンは
ゆっくりと振り向いた。

その気配に
別の熱き感情が
零(こぼ)れ落ちぬように。

振り返った
アリオンの目前(もくぜん)に
リゲルの姿があった。

「久しくあります。兄上」

リゲルが、恭(うやうや)しく
言った。

「私に何用(なによう)か?」

アリオンは、でき得る限り
静かに応えた。

「私に用がございますのは
 兄上でございましょう」

リゲルは、そのアリオンよりも
より静かに
また冷え冷えと応えた。

……。

「私が、おまえに何用(なによう)が
 あると言うのか?」

アリオンは
だが、再び静かに答えた。

……。

セカイに、一瞬、静寂が流れた。

……。

やがてリゲルが、口を開いた。

「私を …」

「……」

「私を、その剣(つるぎ)となった
 諸刃(もろは)で
 殺す用でございます」

リゲルの唇に、薄い笑みが映った。

……。

だが、アリオンは
静かにそれに応えた。

「…。何故(なにゆえ)
 私がおまえを
 殺さねばならないのか?」

するとリゲルは、言った。

「これは、意外。
 兄上が、それほど物静かな
 臆病者とは知りませんでした」

リゲルの唇が
嘲笑の笑みに歪んだ。

……。

「…。私に殺される事が
 おまえの望みなのか?」

アリオンは、だがやはり
静かにそれに応えた。

……。

リゲルが、続けた。

「ええ …。
 先程までは。
 その、兄上のキボウの樹(き)を
 見るまでは」

「……」

「全てが
 大海(たいかい)の屑となり
 失望し絶望した兄上と共に
 滅びる事が私の望みで
 ございました。ですが」

「…」

「ですが、兄上はキボウを
 見つけた。ですから、私は
 それを、踏みにじりたいと
 思います」

……。

アリオンが、静かに応えた。

「私の絶望が
 おまえの望みなのか」

「その通りです」

リゲルが言った。

……。

アリオンが応えた。

「その為に、無垢なレナを欺き
 私に諸刃(もろは)を
 抜かせたか?」

「その通り」

……。

一瞬、大海(たいかい)が揺れた。

……。

「兄上の怒(いか) りを持ってすれば
 私を殺す事など
 簡単な事でございましょう」

……。

アリオンは、静かに目を閉じ
一つ大きく息を吸い
そして、大きく吐いた。

それから、目を開け
静かに言った。

……。

「おまえの望みは叶わん。
 私を罪人(つみびと)にし
 失脚を望み
 セカイを足下に踏み敷かんすとる
 おまえは、悪(あく)だ」

……。

「悪(あく)。大いに、結構。
 では、私は、悪(あく)と
 黒闇(くろやみ)を持ってして
 再びのセカイを
 悲しみに染めましょう」

リゲルは応えた。

……。

「よかろう。やってみるがいい。
 そして、無力を知るがいい。
 私は、私の名をかけて
 再びのセカイに
 希望の光を照らす。

 おまえは、自らが
 悪(あく)の名の下(もと)に
 孤独な滅びの道を歩むがいい」

……。

アリオンが
決然(けつぜん)と応えた。