「……」
アリオンは絶句した。
目の前の
己の足元に及ぶ有り様(よう)に。
レナの涙は
創り上げたセカイを
すべて飲み込んだ。
それはまさしくすべて
アレイアさえも飲み込んだ。
そうして、それは
蒼くて悲しい水の星となった。
レナの涙は
アリオンの膝丈を覆い
だが、その冷たさは、まるで
全身にかぶる氷滴のようだった。
な・ん・と・い・うこ・と・だ!!
アリオンは
心の中で繰り返した。
やがて
全身に体感する冷たさに
アリオンはレナの悲しみを知った。
「レナ。
おお、レナ。私のかわいい妹よ。
おまえの悲しみは
これほど深きものだったのか。
おまえの哀しみはこれほど蒼く
冷たきものだったのか。
おお、レナ。レナよ。
それは、全てを
飲み尽くすほどに…」
アリオンは立ち尽くし
天を仰ぎ、冷たい水に覆われた
地を仰いだ。
そして、己の計らいに
凍てつく結末を見た。
「レナよ。妹よ。
おお。アレイアよ。
そして、ソラよ。
これが、すべての
結末だというのか。
おお、すべては、私の…」
アリオンは、嘆いた。
それは、生まれ出(い)でて
初めての、後悔の念だった。
……。
すると、冷え冷えと凍てつく
身体の一点に、熱き感触がした。
それは、己の目頭から溢れ
そして、頬をつたっていった。
「これは、何だ。
この熱き、流れおつる感触は …」
それは、アリオンが
生まれ出(い)でて、初めて
体感する涙だった。
「この、感触。この感覚。
おお。これは
深き悲しみにあって
だが、熱きもの。
冷えた、心身(しんしん)に
熱く流れゆくもの …」
アリオンは、しばし
その、流れ出(い)でる感触に
触れていた。
「おお。まさしくこれは
流れ出(い)でるもの。
流れるもの。
私の中にあって、セカイにある。
おおそうだ。そうだ。
哀しみが、悲しみが
結末であるわけがない。
その証に見よ。
これは、まさしく流れている。
私の中に溢れ
そして出(い)でおつる。
この地に。セカイに。
レナに。アレイアに。ソラに」
アリアンは
己から溢れ出(い)でた
その熱き涙が
今は、深き蒼となった
セカイに落ちゆくのを見た。
それは
はたはたと零(こぼれ)れ落ち
そして、アリオンの足元の水に
紋(もん)を創った。
「見よ。私から、流れ出(い) で
セカイに創り出す。
そうだ。
結末は、悲しみではない。
そうだ。私は確信する。
そうだ。これは、希望」
キ・ボ・ウ…。
…キ・ボ・ウ…。
その言葉を繰り返しつ
アリオンは、涙を流し続けた。
すると、やがてその涙が落ち
出来た紋の中心が深く窪み
それから、今度は
少し盛り上がり
そこから、一本の木が芽吹いた。
「おお。これは。
これこそまさしく、キボウ。
私が抱(いだ)き、私に応えた
希望。
この木が健やかに
大樹(たいじゅ)となる様
そして、再びのセカイと
なるように」
すると、木は、すくすくと伸び
アリアンの半身ほどの
大きさになり
その豊かに茂った緑の中に
小さな花をつけ
やがて実を結んだ。
七つの紅い
結実(けつじつ)であった。
「これは、種。
私が願うセカイの種だ。
私は、この樹(き)と
この七つの結実(けつじつ)に
ただ一度誓おう。
七度(たび)終わりし時
何一つとして
悲しむセカイが来ない様に」
アリオンが、跪き
まさにその樹(き)に
くちづけんとしたその時。
背後で、気配がした。