act01: 原点: sec08

想い

「アリオン!何をするのです!」

「どくのだ。アレイア。
 その醜悪なる者を
 滅(めっ)するのだ」

「何を言うのです!
 これは、我々の妹
 レナ・ジュノンです!」

「違う。レナ・ジュノンは
 美しい娘だった。
 そのような
 醜怪なものであるものか!」

「おお。なんと、罪深き発言よ。
 あなたは見てくれだけに
 その価値を見出すというのか?」

「内心の心の歪みこそ
 そのような形になるのだ」

「では、アリオン。
 あなたに聞きますが
 あなたは決して
 このような姿にならないという
 心の潔白さを
 お持ちなのですか?」

「私は
 惑わされるような事はない」

「では、言いますが。
 あなたは、今
 目の前の妹の変貌に
 惑わされています。
 あなたは、何に対して
 そんなに怒(いか)って
 いるのか?」

「む…。わ、我が妹でありながら
 惑わされ、そのような姿に
 成り下がった事に、だ」

「では、聞きますが。
 レナは、なぜ
 惑わされたのですか?」

「そんな事は簡単だ。
 愚かだからだ」

「あなたは、大切な事を
 忘れています。
 私たち4個体は
 もともと、ソラから
 生まれた存在(もの)です」

「そんなことは、承知している」

「では、聞きますが。
 同じソラから、生まれ
 4個体になった訳(わけ)は
 何ですか?」
 
「訳(わけ)?それはこうだ。
 互いに意識し合った事から
 互いが生まれた」

「それは、結果です。
 アリオン。
 私は、あなたに今
 真(しん)に言いますが。

 我々が、今
 こうしていられるのは
 いいえ、言ってしまえば
 もしあなたが、惑わされない
 強き存在(もの)なのだとしたら。

 それは、惑わされる弱き部分を
 妹、弟が、請け負ったからです。
 我々は
 それを忘れてはなりません」

「む…」

「あなたが、今ここで
 レナ・ジュノンを殺すというなら
 それは、否定する事になります。

 そして、それは
 あなた自身を殺す事になります。
 私を殺す事になります。
 ソラを殺す事になります」

「……」

「あなたは真実を
 見なくてはなりません」

「……」

アリオンは、レナを見た。

「お兄様。
 お兄様がそのように
 お怒(いか)りになるとは
 思いもよりませんでした。

 私は、お兄様にとって
 ソラにとって
 大変な事をしてしまったの
 ですね?」

「む …」

「では、どうか
 その諸刃(もろは)で
 私を殺してくださいませ。
 お兄様に愛されたくて
 そうしたのです。

 愛されず
 怒(いか)らせるだけの
 存在(もの)なら
 私は、わたしを
 要(い)りません」

「……」

レナは
その代わり果てた姿から
青くて透明な涙を
はらはらとこぼした。

そしてそれは
大きな悲しみの湖となり
やがては全てを包括する
大海(たいかい)となった。