act01: 原点: sec05

黒の画策

ある日
黒の弟、リゲル・マヨルテが
来て言った。

「我らが、かわいい妹よ。
 何を泣いているのか?」

「はい、博識なるお兄様。
 私は、子がなせない身が
 悲しいのです」

「子が?」

「はい…。
 何故(なにゆえ)私には
 子がならないのでしょうか?」

「なるほど。かわいい妹よ。
 確かに、おまえは
 姉と、同じ白でありながら
 子がならない。
 なるほど。それは大いに
 疑問である。

「……」

「おまえはそれが
 哀しいというのだな?」

「その、理由(わけ)が…。
 私がアリオンに
 愛されていないから
 …ではないか…。
 と、思うからです」

「なるほど。なるほど。
 同じ白であるならば
 同じアリオンの愛が在(あ)れば
 子がなると、言うのだな?」

「はい。私にはそう思えるのです」

「なるほど。なるほど。
 それは
 おまえの言う通りかも知れない」

「ああ、やはりそうでしょうか。
 博識なるお兄様。
 やはり私はアリオンに
 愛されていないのでしょうか?」

「おまえの言い分は、もっともだ。
 だから、きっと兄は
 おまえを 愛していない
 …のかもしれない」

「ああ…。ああ、やはり…」

「おまえは
 兄に、愛されていない自分が
 哀しいのだな?」

「はい…。愛されていない私が
 哀しいのです…」

「そうか。そうか。
 おまえの泣いている理由(わけ)
 良く分かった」

「ああ、お兄様。
 私の悲しみを
 分かってくださいますのか?」

「分かるとも。
 我らが、かわいい妹よ」

「ああ、お兄様…」

「愛されたいか?かわいい妹よ」

「はい。愛されたいと思います」

「そうか。そうか。
 では、私がおまえに
 愛される術(すべ)を
 教えてやろう」

「愛される術(すべ)…」

「そうだ。元々おまえはかわいい。
 おまえは、美しい。
 その上に、この私の知識をもって
 愛されるべき
 完全な体(たい)になるのだ。

「完全な…体(たい)…」
 
「そうだ。
 そうすれば兄はかならずや
 おまえを愛することだろう」

「本当ですか?博識なるお兄様。
 私はアリオンに
 愛されるのですか?」

「本当だとも。
 おまえは愛されるべき
 完全な体(たい)になるのだ。
 そうしてアリオンに
 愛されるのだ」

「ああ、お兄様。
 うれしい。うれしい。
 早く、私にその術(すべ)を…。
 その体(たい)を授けてください。

「……」

「ああ、そうすれば私は
 アリオンに愛されるのですね?」

「そうだとも」

黒の弟、リゲル・マヨルテは
知識の泉を持っていた。

将来生まれ出(いずる)命が
必要とする知識を …。

セカイにおいて
必要となる術(すべ)を…。

だがリゲルは嫉妬していた。

黒の兄、アリオン・ベテルに
嫉妬していた。

その勇猛な力と
その判断力と決断力
そして、実行力を司り
4つの、統括者となっている
アリオンに…。

そして、生み出す大地に
撒くべき種を持つアリオンに…。

「私の知識こそが
 ソラの全てであるのに
 その私に、種がないのは
 何故(なにゆえ)か?

 私の知識こそが、このセカイを
 支配するのにふさわしい。
 だのに、何故(なにゆえ)兄が
 最高者なのか?
 これは、不幸の至りである」

リゲルの不満は、暴慢していた。

だから兄のアリアン・ベテルを
貶めたいと
望むようになっていた。

だから、レナに黙っていた。
本当の事を黙っていた。

レナに子がならない
本当の理由(わけ)を
知っていながら黙っていた。

「兄に、汚点を与えれば
 自ずと私が最高者となる。
 兄が、罪を着ればいいのだ。
 兄が、兄自身で
 罪を着ればいいのだ」

そうして、リゲルは、画策した。

「レナを騙し
 偽りて術(すべ)をすべ与え
 それを持って兄を誘惑させよう。
 兄は、レナを許すまい。
 この私に、委ねた事を許すまい。

 その姿を一目見て
 諸刃(もろは)を抜くに違いない」

リゲルは、己の画策に
高揚していった。

「そして兄は
 諸刃(もろは)をレナに向け
 きっと、殺すに違いない。
 まさしくそうして、兄こそが
 大いなる、罪人(つみびと)と
 なるのだ」

そうして、レナに付け込んだ。
そうして、レナを懐柔した。

リゲルは、レナに
術(すべ)を与えた。

時は流れた。