たったったっ…。
ぷしゅーっ…。
「は…」
僕はどうにか
最終ライナーに間に合った。
「……」
畠さんは
カナンにいる…。
メールの送信時間が
…23時27分…。
僕とカナンで別れたのが
…22時42分…。
あの時畠さんは
シナイに忘れ物をしたと言って
ゲートから引き返して行った…。
それから畠さんが
まっすぐ帰宅したとしても
…自宅があるA-2まで
30分は掛かるはず…。
畠さんは
シナイであのメールを打った…?
では戻ったのは
メールを打つため?
だがそうだとしても
違うとしても
メールを打っている
時間を考えたら。
別れた後
すぐに打ち始めたとしか思えない。
それで
〝動けなくなった〟…なら…。
— 次は D-6 に止まります。 —
「………」
カナン…。
ぷしゅー。
だっ。
僕はライナーのドアが
開くと同時に飛び出した。
たったった…。
〝イノガシラ〟を
真っ直ぐ西へ向かう。
「はっ…はっ…」
何が起こった…?
畠さん…。
頭の中で繰り返す…。
たったった…。
…たったっ…。
た…。
カナンのゲート…。
ちゃら…。
ソーサーにチップを入れる…。
— あなたはロア・クラスではありません —
—– 入場を希望しますか? —–
—– はい?/いいえ? —–
確認のメッセージ…。
< はい >
ウィィィィィン…。
— 面会希望者があれば —
—— お探しします——
…面会…希望者…。
タッチパネルに触れる指が
僅かに震えた…。
< クラス = “IB” >
< 氏名 = “Hata Akatuki " >
< 確定 >
ウィウィィィィィン…。
♪♪♪シャラララン…フウフウ…ラルラ…♪♪♪
♪♪♪シャラララララ……フウフウ…♪♪♪
♪♪♪シャラララン…ラルラ…♪♪♪
♪♪♪シャラララ・ラン……♪♪♪
—– クラス = “IB” —–
— 氏名 = “Hata Akira” —
—— を認識しました ——
— 表示される矢印に沿って —
—— お進みください ——
— お心に感謝します —
認識音がした。
僕はすこしほっとした…。
目の前のゲート・ボールに
手を伸ばす…。
す…すすすす。
すす…。
視界が
一瞬マスカット1色になり…。
…次に広がる赤の世界…。
全身に…。
…疼きが…走る…。
「ふ…」
僕は短い息を吐いて
瞬きをした…。
「……」
足元に矢印が表示されている。
やっぱり
畠さんはカナンにいるのだ。
たっ…。
僕は矢印に沿って進み始めた。
矢印はシナイに向かっている。
…たったったっ…。
たったったっ…。
…た…。
ばん…。
シナイのドアを開けた。
畠さんを探す。
…いない…のか…。
僕はシェーカーに尋ねようと
カウンターに近づいた…。
「あ……」
カウンターに
モバイルが置いてある…。
Lidに刻印された A.H …。
畠さんのイニシャル。
「あ…の…」
僕はシェーカーに声を掛けた。
「はい。なんでしょう」
シェーカーはグラスを拭きながら
僕に振り向いた…。
「あ…の…。このモバイルは…」
「ああ。それですか。
それは。お客さんが
置いていったのですよ?」
「置いていった…?えっ…と…。
その人は
…インディーゴ・クラス……?」
「はい。そうです。
ああ。あなたは。
お連れの方ですね?
夕方見えられた?」
「そうです…。あの…それ…で
その人は……?」
「一人で見えたのですよ。
しばらくカウンターで
マゼンタを飲みなさって…」
「……」
「30分ほどで出ていかれました」
「…出て…行った…」
「はい」
「モバイルを置いて…?」
「そうです」
「…な…なにか…。言って…。
あの…。黙って…置いて
行ったんですか…?」
「自分はだいぶ
酔ってしまったから
落としてはいけないので
ここに置かせてくれと…」
「…ほ…他には…?」
「……」
「…」
「……」
「お…おしえて…くだ…さい…。
おねがい…します…」
僕は頭を下げた。
「い…いやいや。止めてください。
どうか…。頭を上げなさって…。
ブルー・クラスの方に
頭を下げられたのでは…」
「……」
「いえ…それが…。
妙な言葉でしたので…。
私の聞き違いかとも思いまして」
「な…なんて…?」
「はいそれが…。その方が…」
「……」
「〝夜は明けるか?〟
…と私に聞きなすったので…」
「……」
「私は。〝夜が明けないと
明日になりません〟
と…お答えしたのです」
「……」
「そうしましたら…。
軽快に笑いなすって…。
〝ありがとう〟…と…」
「……」
「…」
「……」
「やはり
…私の聞き違いかもしれません」
「…そ…それで…?」
「はい。それで…。
それだけ言われて。
席を立って出て行かれたのです」
「……」
「あ…ありが…とう
…ご…ざい…ます……」
僕はもう一度頭を下げた…。
「いえいえ…。
お役に立てませんでした
ようで…」
僕は少しだけ首を振った…。
…ばたん…。
シナイを出た…。
「……」
月の青に照らされたカナンの赤が
別の色に見えた…。