Act04: 布石: section07

音信

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送信者 : a-hata@a-2eden
送信日時 : 23:27 08/15/2099
宛先 : t-taki@b-3eden
件名 : トモへ
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トモ。

取り急ぎ
メールで知らせることになった。
俺は、もう、動けない。
だから
約束の時間に行くことが出来ない。

そして、おそらく
2度とおまえに会うことも
ないのだと思う。

このメールが
おまえに届くものかどうかも
俺には判断がつかない。

だが、俺がおまえに
言っておきたかったことを
俺自身が確認する意味でも
こうして記録することにした。

俺が動けない理由は
後から触れるとして。

まず
おまえの作品が知られた理由だが。

それは、シナイで少し触れた通り。
UMC(アッパーモストクラス)が
俺達の脳波傍受をしていたから
というのが、その理由だ。

では、何のためにか。
おまえの知りたい論点は
二つだろう。

一つは。
何のために
UMCが一般民の脳波傍受を
しているか。

また、傍受した結果
UMCはどういうアクションを
しているのか。

もう一つは。
今回、公開するつもりのない
おまえの作品を
強引に(傍受していることが
発覚する恐れがあるにも
かかわらず)
取り上げようとするのはなぜか。

――――――――――――

まず、UMCが
一般民の脳波傍受を
している理由だが。

それは、脳波傍受によって
エデンにとっての危険因子を
捉えるためではないかと思う。

そして、それを捉えた結果
UMCは、その危険因子を
エデンから〝消去〟しているのでは
ないか。

さらに、その消去の事実を
隠滅するために
人々の記憶から消去という事実を〝抹消〟しているのではないか。

では、ここで言う、EDEN神に
とっての危険因子とは何か。

それは、〝疑う〟という
心理も含めた、〝自己思考回路〟の
成立ではないかと俺は考えた。

エデンの民は、エデンにあり
そして、それが幸福であると
信じて生きている。

そして、そのことに
疑いを持たずに、生きている。

〝信じる〟ということと
〝疑わない〟ということは
同義語になるだろうと思う。

そして、信じるということも
疑わないということも、
一見、強い意志の様でいて
その実は実感している
己なのではなく

自らが考える回路
=自己思考回路を
なんらかの要因によって
切断されてしまっている為に
起き得る
心理状態なのではないか。

つまり、己の決断
あるいは実感などといった
本来備わっている人間の自我と
外観を作る〝表層意識〟とが
結びついていないがために起きる
言わば、心理欲求であり
己の自我から生じた
自己意識ではない、ということだ。

ちなみに、ここで俺の言う
表層意識とは
エデンで詰め込まれた
知識によって
言動する意識のことだ。

では、自己思考回路を
どうやって切断しているのか。

UMCは、スクールで
人格を養育する。

また、ヒーリングセンターでは
感覚異常者と称して
意識改善治療を行う。

それは、誰でもが知っている。
つまり公の事実だ。

俺は、このうちの後者
ヒーリングセンターでの
改善治療に
仕組みがあるのではないか
と考えた。

それは、おまえも
何度か供出の時に
経験しているだろう。

こちらの脳波を受信した
センター側が
搬送波だけを返してくる
という仕組みだ。

俺は、考えた。
返してくるのは、果たして
搬送波だけなのか。

また、仮に返されるものが
搬送波だけであるにせよ
それによって、何が起きるか。

結果的には、供出の場合は
作品データの消去
ということになるわけだが
まさしくそれこそが
記憶消去のからくりそのものでは
ないか。

なぜなら、〝あったこと〟が
頭の中から、〝なくなる〟
ということは、まさに
〝記憶喪失〟と同質のものでは
ないか。

そしてなおかつ、そこに
自己思考回路切断の仕組みも
あるのではないか。

人間の記憶は、クラスタだ。

だが、ただ集まっているだけでは
ひとつの記憶として
意味を成さない。

それがきちんと
クラスタ・チェーンに
なっているからこそ
人間は、記憶を呼び起こすことが
出来る。

逆を言えば、
クラスタ・チェーンが
破壊されていては
記憶として呼び出すことが
出来ないというわけだ。

そして、さらに俺が考えたのは
このクラスタ・チェーンが
単に、記憶を成立させている
だけでなく
自己思考回路の成立にも
大いに関係するのではないか
ということだ。

極論を言えば。
記憶の成立と
自己思考回路の成立には
切り離せない事実が
あるのではないか。

記憶そのものが
人間の起源にかかわるものでは
ないのか。ということだ。

だがここで、
人間の起源うんぬんに関してまで
論点を当てている時間はない。

そこで、現行のセンターが
行っている、〝搬送波を返す〟
という作業に視点を当てて見る。

これは、おまえも知っている通り
もとあった領域に自分の搬送波を
上書きされるわけだが

その結果、元あった
クラスタ・チェーンが
破壊されてしまうのではないか。

そして、作品供出というよりは
個人のクラスタ・チェーンの
破壊ということが、UMCの
第一の目的なのではないか。

そして、ヒーリングセンターでの
治療も同様に、
クラスタ・チェーンを
破壊することが
目的なのではないか。

ヒーリングセンターは
密かに一般民の脳波を傍受し
危険因子を発見しては
ヒーリングセンターに出頭させ
改善治療という名の〝破壊〟を
行っているのではないか。

クラスタ・チェーンを
破壊することにより
記憶の事実上の消去を行う。

そして、なおかつ
自己思考回路の切断という現象が
エデンに生きることに
何の疑問も持たないといった
自己意識の空白状態を作る。

その上で、スクールにおいて
エデンとEDEN神についての
刷り込みを行う。

つまり、エデンの民は
改善と称して
外と内から2重に〝洗脳〟を
行われているのではないか。

現に、俺達は
エデンより以前の世代に
生きていた事実があるにも
かかわらず、その記憶を
喪失している。

それは、エデンの大義名分として
過去の忌まわしい歴史(人格
個人の記憶も含めて)は
エデンで生活するには
全く必要ないことで
むしろその歴史や記憶がない方が
幸福に生きられる
とされているからだ。

そして、それをエデンの民は
まるで信じている。
それが、幸福であると。
――――――――――――

二つ目の論点として
なぜおまえの作品が
取り沙汰されたのか。

俺が思うに、あの作品は
おそらく
パブリケーションされないだろう。

なぜなら、あの作品が
一般民の目に触れれば
危険因子を増殖させる
おそれがあるからだ。

その理由の、ひとつは。
あの作品が、〝誰の目にも良い〟
と思えるものであるということ。

では、なぜそれが、いけないのか。

それは、〝誰の目にも良い〟ものを
一般のクリエーターが
創ってしまってはならないからだ。

〝誰の目にも良い〟ものは、
最高者、つまりEDEN神だけが
創れるものでなくてはならず、
人間は、必ずそれより
劣っていなければならない。

わかるか。そうでなくては、
エデンは成り立たないのだ。

なぜなら、エデンは、
EDEN神の創ったEDEN神の
世界だからだ。

その中で
誰もが納得するものを創れるのは
完全者であり、それが
唯一絶対神でなくてはならない。

つまり、それは
EDEN神一人でなくては
ならない。

そうでなければ
最高者という概念が
成り立たないのだ。

さらに、もうひとつ。

おまえの
あの作品の中に広がるセカイは、
エデンにはない。

エデンにない世界を
おまえが創ることが出来
それが一般民の〝誰の目にも良い〟
と感じられたならどうなるか。

それは、自分を最高者であるとする
EDEN神にとって、
大変な脅威となる。

わかるか。おまえのセカイが
一般民にとって〝エデンより良い〟
ものになる可能性がある
ということが。

それは
EDEN神的発想で極論すれば
おまえが、〝神〟となる可能性が
あるということだ。

だから、UMCは
おまえの中に見つけたセカイを
EDEN神にとっての危険因子と
判断した。

そして、おまえから取り上げ
つまり、おまえの中から
消去する決定をした。

――――――――――――

俺が動けない理由を書こう。

俺は、この世界がすべてではない
と思っている。

つまり、EDEN神を最高者として
感じていないということだ。

と、言うよりは。
世界が平和であるのに
最高者という存在は必要なかろう
と思っている。

これは、つまり俺そのものが
EDEN神にとって
危険因子であり
エデンから消去されるべきもの
であるということになる。

おそらく。
今まで、俺のような因子は
いたのだと思う。
そして、消去されてきた。
秘密裏にだ。

クラスタ・チェーンを破壊すれば
記憶を消去できる。

〝その人間がいた〟という事実を
個人の中から、抹消できるわけだ。

そうして、エデンでは
それが事実になる。

つまり、〝いた人間〟が
いなくなったとしても
存在する民の中から
記憶がなくなれば
最初から〝いなかった〟事に
出来るというわけだ。

そして俺は、おそらく
消去されるだろうと思う。
そして、おまえの記憶からも
抹消されるのだろうと思う。

消去されたら俺自身は
どうなるのか。

それが、かつての
エデン以前の世代で言う
〝死〟にあたるものなのかどうか。

それは、わからない。
ただ、EDEN神から見れば
俺は〝死んだ〟ことになるのだろう
と思う。

だから、このエデンでの存続が
なくなるのは確かだろう。

俺に対する消去のアクションは
実は、もう俺に届いている。
それが、俺がもう動けない理由だ。

――――――――――――

俺は、ヒーリングセンターからの
再三の呼び出しに応じなかった。

それが、消去という手段を
取られることになったのも
事実ではあるが
逆に、俺のクラスタ・チェーンが
まだいくらか
繋がっていることにもなるようだ。

俺には、かつての世代の記憶が
わずかにある。

おまえには
かつての世代の記憶を
重ねていた部分があった。

だから、必要以上にかまうことも
多かったかもしれない。

最後に謝罪と感謝をしたい。
おまえ自身の幸運を。

A.Hata
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