♪教えて ここには 何があったのか♪
♪教えて この世界は 誰のものなのか♪
♪もしも この世界に すべてがあるのなら♪
♪僕は どうして 夢を見るのか♪
… hymn …?
じゃ…ない…?
…な…に…。
♪教えて コンクリートの向こうはいく色か♪
♪教えて アスファルトの下は何なのか♪
♪もしも この僕が どこにもないのなら♪
♪僕は どうして 生まれて来たのか♪
「…ん…」
…わぃわぃわぃわぃ…。
人の声…。
僕は寝返りを打つつもりで
少し体を動かした…。
…から…ん…。
……聞き慣れない…音…。
「起きたのか?」
「…え…ッ」
がば。
僕は一気に体を起こした…。
「わ…」
「ばか。急に起きるなよ。
どこだと思っているんだ?」
畠さんの声…。
見れば
目の前には瓦礫が広がっていて
僕は
その積み上がった瓦礫に座っていて
そして
隣には畠さんがいた…。
「女と間違えられたって?」
「……!」
「あいつに」
畠さんが顎でしゃくって。
少し離れた場所を示す…。
♪♪♪ …… どうして …… ♪♪♪
♪♪♪ …… 見るのか …… ♪♪♪
♪♪♪ …… 見るのか …… ♪♪♪
…歌声…。
人々が集まって…。
…円陣ができている…。
♪♪♪ おしえて …… ♪♪♪
♪♪♪ …… だれの …… ♪♪♪
♪♪♪ …… 見るのか …… ♪♪♪
hymnではない。
聞いた事のない…歌……。
円陣の中心に
一人の男が立っている。
どうやら歌は
その男が
ひとりで歌っているようだ。
「…あ…ッ…」
…あいつ…!
その中心の男は
僕を女と間違えた
赤い頭髪、赤い瞳の…。
…あ…。
じゃあ…。
…そう…か…。
あのまま…?
「状況把握できたか?」
「…う…」
畠さんが聞いた…。
「迫られて気絶したの?」
「…ちが…!」
「はははは。
トモは美人だからなぁ」
畠さんが笑った…。
「おもしろいヤツだな。あれは」
「…?」
「わかるかおまえ。あの男の
歌っている意味」
「……」
♪教えて ここには 何があったのか♪
♪教えて この世界は 誰のものなのか♪
♪もしも この世界に すべてがあるのなら♪
♪僕は どうして 夢を見るのか♪
「あの男も反分子だなぁ」
「…反分子?」
「さて。今日はお開きだ。
十分だろ?」
「…十分って…なにが……」
「帰ってよく黙想しろ。
このまま聞いたら
ハングアップするぞ?」
「……」
「納得したら明日来いよ。
同じ時間に待っている」
畠さんが立ち上がった…。
「……」
「じゃあな。トモ。
またからまれるなよ?ははは」
「……」
…じゃり…じゃり…。
足元に気を配りながら
畠さんが瓦礫の山を渡って行く…。
…じゃり…じゃりじゃり…。
「畠さん!」
僕は立ち上がり畠さんを呼んだ…。
「何?」
畠さんが振り向いた…。
「……」
だが
…僕は次の言葉が続かない…。
何を…言えば…。
…何を…どう…。
「—。明日おいで。今日はもう…」
畠さんがそう言いかけた時…。
おおおーぃぃぃ…
遠くから男の声がした…。
僕と 畠さんが振り向くと
さっき円陣の真中で歌っていた
赤毛の男が
こちらに向かって走ってくる…。
そしてその後ろを
円陣を作っていた連中が
ぞろぞろとついてくる…。
…おーぃ待てよー…
赤毛の男は
たちまち僕達に近づいて…。
「よッ。気がついたのかよ」
僕に話しかけてきた…。
「びっくりしたぜ?ああ?
やる前に倒れちまわれるなんて。
おれぁ初めてだぜぇ?」
そう言って大声で笑った…。
「おまえが作ったのか。あの歌は」
畠さんが男に聞いた。
「おうよ。
おれさまが作ったのさァ」
男が自慢げに言った。
「作ってどうするんだ?
パブリケーションできるわけじゃ
ないだろ?」
さらに畠さんが聞く…。
「どうするって、あによ?
歌うんじゃん。
決まってんだろ?」
「…歌うのか。なるほどね」
「おっちゃんなによ?
IBなんじゃん?
プロデューサーかなんか?」
「だったらどうする?」
「おれの歌。売れよ?売れるぜ?」
「…。売れる…か…。
売れたら危険だな」
「おう!わかってんじゃん。
おれは危険な男だぜぇ?」
「ふぅん…」
畠さんは男との会話を
まるで楽しんでいるかのように
その場から動かない…。
瓦礫の山上に立って
男と集まった人々を
見下ろしている。
「高いところに立ってろよ?
いつかおれが登ってった時
引き摺り下ろしてやんからよ」
男が叫んだ。
「わかって言ってるの?おまえ」
畠さんが応える。
「ったりめぇだろ。おれは。
ちげぇぇんだよッ」
「ふぅん…。なるほどね。
確かに違うな」
「おうともよ!」
「ふぅん…。じゃあさ。
おまえにとって。
〝悪いやつ〟っているの?」
畠さんの一言に人々が静まった…。
「—。おっちゃん。
ウリ方心得てんな」
「誉められるとは光栄だね」
「はっ。たかくくってろよ?
おれぁてめぇなんぞの
相手じゃねぇぜ?」
「—。なるほど…。よく
…覚えておくよ」
…じゃり…。
畠さんは瓦礫の山を降り始めた。
…じゃりじゃり…じゃり……。
いつのまにか照りだした月光が
僕と畠さんと男と…。
そしてそこに集まる人々を
うっすらと舐めて行った…。