「僕はさ」
張り詰めたような静寂を破って
畠さんが第一声を切った…。
「………」
「僕はとにかく。面倒な話は
抜きにして。この作品の
エンディングが見たいよ」
「え、そ、それは…。畠君…」
所長が慌てて聞き返す…。
「だからさ。どういうやり方か
…は任せるから。
そのための所長でしょ?」
「え、え、え、それ、は…」
「僕はさ。滝君の作品が
好きなんだよね」
「あ、そう。そうだ、よね?
そう。そうだ。ほら。滝君。
畠君、も、ああ言って、
くれて、いる。ね?
だから、馬鹿な、気は、
起こさず、に…」
「……」
「ね?まだ、転身、
していないん、だろ?
それとも…もう…?」
「……」
「滝君。滝、君。黙ってちゃ、
わからない、んだよ?ん?」
「…は…」
僕は小さく息を吐き
知らずに力の篭っていた
両肩から少し力を抜いた。
そして口を開く…。
「…この…作品は…」
「……」
「…この作品は…。
公開…するつもり…は…」
「……」
「あ…ありません…でした」
「……。また、またそんな…。
嘘は、いけない、よ。
嘘は…。嘘は、ね、嘘は、
神が最も、嫌う…」
「嘘では…ない…です」
「ほ、本当かい?」
「…本当…です…」
「じゃあ、じゃあ。君、は…。
これだけの、これだけのだよ。
作品を。ただの、ただの趣味で。
趣味で創っていた、と、
そう、そう言うのかい?」
「…そう…です…」
胸が…重い…。
「で、でもね…」
「あのさ」
言いかけた所長を遮って
畠さんが口を挟んだ。
「あのさ。作品が、滝君のもので。
まだ、公表してないって
言うなら。
もういいんじゃないの?
後は、著作権譲渡の契約してよ。
実際の話
トップクリエーターの
滝君がいなきゃ
ここなくなっちゃうんだしさ」
「そ、それは、待って、よ。ね?
待とう、よ。じゃ、じゃあ。
そう。そう、だね?じゃ、滝君。
滝、君。僕は、僕はね。
君を、信用、して、いい、
いいのか、な?」
「……」
「滝君」
所長が返答を催促する…。
だが…。
…YES…と言えば。
何なのだ…。
「た、滝さん。契約してくれや。
そうしてくれな、困る。
オレらまで、あんたと一緒に、
バックレかます思われてますわ」
「……」
「そ、そーっすよぅ。
頼んますよぅ。滝さぁん」
…公表するつもりはない…。
だが…。
…それでは通用しない…の…か…。
「は…」
…息を吐く…。
「滝君。わかるだろ?
もう、子供じゃないんだしさ。
どういう経路にしろ
こうやって人目に触れた以上
もう、それは。
君の
プライベート・ワークじゃ
ないんだよ」
畠さんが、言う…。
「……」
「そう、そうだ、よ?
だから、だからだね。滝君。
こうして、こうしてだよ。
みんな、みんながね、
心配して、いるんだ、よ?ね?
ほら。神崎、君も。紺谷君、も」
「そ、そうでっせ」
「そーっす」
…皆が…。
口を揃えて言う…。
「は…」
…息が…浅い…。
僕は…。
「…わ…わ…かり…ま…した…」
…僕は言った…。
「そう?そう?そうか。
そうだ、ね。うん。そうだ。
良かった。うん。うん。
良かった。じゃ、じゃあこれ、
契約書、だからね?ささ、
書いて」
所長が一枚の紙切れを
僕の前に差し出した…。
がたん。
畠さんが席を立った。
「あ、あ、畠君。行く?行くかい?
そう。そうか。忙しいのに。
ご苦労だったね…」
「–。滝君」
声を掛けた所長には答えず
畠さんは…。
「コンプリーション
楽しみにしてるよ」
…僕を見て言った…。
…かっ…。
かつかつ…。
畠さんは
そのままドア口に向かった…。
かつかつかつ…。
皆が注目する中
フロアに足音を立てて
畠さんが歩く…。
がちゃ…。
そしてドアを開けかけた時
立ち止まり振り向いて…。
「<SCRIPT language=“BScript” >
<!–
If thanks=1,go to “KANAN”,end;
//–>
</SCRIPT >」
そういい残して出ていった…。
「…な、なんて?なんて言うた?
畠さん…」
「えー。なんか…。
構文みたいだったスよねぇ?」
「……」
「あ、あ、いい。いい、
いいんだ、よ。君達は…。
それより、喜ぼうよ。ね?
感謝して、ね?
滝君が契約するから。
ああ、安心、して…ね…?
さ、じゃ、滝君、は。これ…。
ささ、書こうか?ね?
ほら、ペン。ペンだよ?」
所長がそう言いながら
僕に万年筆を渡した…。
「……」
僕は目の前の紙切れに
視線を落とした…。
〝著作権譲渡契約書〟
何度か見慣れた…文字…。
…そして…。
…〝作品タイトル〟…。
…タイトル…。
「は…」
僕は今日何度目かの
小さなため息を吐いた…。
…かり…。
かり。かりかり…。
紙に…ペンが走る音…。
…かり。
かりかり…。
作品タイトル:LUMINESCENCE
(ルミネッセンス)
契約者署名:Tomonari Taki
(滝 誠成)
蒼いインクが紙に滲んだ…。