Act03: 発覚: section02

斜視

こ…これ…。
…これ…は…。

「認める?滝、君。これ。自分、の
 作品だって」

驚いて
半身(はんみ)で固まっている僕に
所長が声を掛けた。

「……」
…な…ぜ…?
これが…?
…ここ…に…?

「ね?滝君。これ、持って、
 どこ、行くつもりだった、の?
 ん?」

僕は
所長の声を空(そら)で聞き
視力と聴力の限りを尽くして
その作品を追った…。

音と映像…。
…エフェクト具合…。

かなり変形はしているが
元データは
間違いなく
僕の作品(もの)だった…。

「……」

「良く出来て、るよ?すごく、
 いい。これなら、どこの、
 会所だって、喜んで、君を、
 迎えてくれるよ。だって、
 これを出せる会所は、きっと、
 すごく、神、の祝福を
 受けられる、もの……」

「……」

「でも、ね。滝君。それは、
 それはね。良くない。
 良くないことだ。よ。ん?
 それは。それはね。
 神の義に…。外れて…。

 外れてだね。滝君…。
 いくら、作品が、良くっても…。
 それは…。つ、罪、罪だよ。
 え?滝君…。聞いている?ん?」

「た、滝さぁん。
 なんとか言って下さいよぅ。
 オレらまで、疑われて……」

「そ、そうでっせ。滝さん。
 あんたひとり、どっかに
 移られんのは勝手でっけど、
 なんでオレらまで、
 疑られなあかんのや?」

「聞いて、聞いて、る??ね?
 滝君」

所長が少しばかり
声を高くして言った…。

僕は
スクリーンから目を外し
ゆっくりと所長を見た。

クリスプが
一層激しく
上下に動いている…。

…そ…そ…ういう…事…?
そういう…。

…つまり皆は
僕がこの作品を持って
どこか別の会所に…。

つまり…
転身…するつもりだと…?
……。
でもなんで…。
じゃあなんで
この作品が
ここにあるんだ…。

誰が
…いつ…。

「滝君。滝、君。
 だ、だんまりなんて。
 だんまり、なんてね。
 卑怯な、卑怯なだね。
 人がする、ことだ、よ?ん?
 滝君…」

「どうして…」
「…な、何、かね?」
「どうして。この作品…。
 ここにある…」

「滝、君。滝君!
 わ、私が聞いている、のだよ。
 え?聞いている、のは。
 私、なんだよ。滝君。君はね。
 答えればいい。答えれば、
 いいだけ、なんだよ!」

「……」

激しい口調になった所長は
頭から顔から
汗を流して…。

「…ふーっ」
僕は
少し大き目のため息をついた…。

皆が僕に注目している…。

その中で
畠さんだけが。
スクリーンを見つめて
僕には背を向けている…。

…僕は…。

「は…」
僕はもう一度
小さ目の息を吐き
そして。

…ぼそり…と切り出した…。
「…僕…は…」

すると…。

「静かにしてくれないかなぁ」
畠さんが声を上げた…。

「今。僕。入っているんだよね。
 見ようよ。作品はさ。最後まで」

「あ、でも。でもね、話を…」
所長があわてて切り出す…。

「だから。終わってからで
 いいじゃない?
 僕。途中でアウトするの
 好きじゃないんだよね」
「あ、そう、だった、よね。
 そう…。で、でも…」

取り繕う所長など
まったくお構いなしに
畠さんは
ずっとスクリーンの方を
向いたままだ。

「あ、じゃ、じゃ、見ようか。
 見よう……。そうだ……ね?
 作品は、最後、まで、見よう」

畠さんは
再び作品に入っている。
所長のフォローにはもう答えない。

僕は…。
「……」

僕も再び
室内にサラウンドする
映像と音響に集中した…。

この作品…。
…これは…。

この作品は…。

これは…。
…僕の中に…。

もう…。
…ずっと…。
ある…。

…この…。

この…もやもやと
何とも言えない…。
…よく…わからない…。

でも僕の中に確かに在る…。

この僕の中で渦巻いている
〝不確かな確かさ〟みたいな…。

…この妙な…感覚…。

それを…。

もっと
…実感…した…く…て…。

…それで…。
創り始めただけ…で……。

だから…。

パブリケーション
…するつもりなんか…。

転身…するつもりなんか…。

「……」
スクリーンの
映像転換速度が速くなった…。
エンディングが近い…。

だが僕はまだ
この作品のエンディングを
完成させてはいない…。

…ひゅん…。

案の定
確固たるエンディングを
迎えないまま
音と映像が途切れた…。

一瞬、室内が静寂に満ちた。