Act02: 神威: section04

風景Ⅰ

エデンの区画は
どこも正方形に整備されていて
それぞれが
そびえ立つ翠壁で仕切られている。

その翠壁を
僕はいつも見上げてしまうのだ…。
果ては見えないのに…。

翠壁の果て。

つまり頂は
僕たちには見えない…。

見上げたその先は
遥か空の彼方に
吸い込まれてゆく…。

つまり
エデンの区画自体が
天井のない大きな部屋のようで。

だから
そこに住む人間にとって。
その翠壁の内部と
抜けている天井(空)だけが
景観できる風景
…ということになる。

もっとも。
自分の住居区以外にも
出入は自由にできるので
他の区画を景観することは
出来るわけなのだが…。

それでも。
エデン全体を
臨むことが出来るわけではない。

エデン全体を
臨むことが出来るのは。

言うまでもなく
EDEN神のみ…。
…ということなのであった…。

翠壁のふもとまで歩くと。
横3つに並んだ
ゲートボールが目に入る。

…コーラル…。
アクア…パール…。

僕は一番右側の
パール・ゲートボールに近づいた。

ゲートボールは
区画の出入りをする時
(つまり、翠壁を横切る時)に
利用する機能だ。

全部で4種類(4色)あって
自分のクラスによっては
越えられないゲートボールも
あるから

自分のクラスが
越えられるゲートボールを
選んで利用する…。

「……」

僕は
ポケットからクラスチップを
1枚取り出して
ソーサーに入れた…。

…かしょ……。
かしょしょかしょん。

…ぴー……。

♪♪ シャラララララ・フウフウ ♪♪
♪♪♪ シャラララン・フウフウ ♪♪♪
♪♪♪♪ シャラララン・ラルラ ♪♪♪♪
♪♪♪ シャラララ・ラン ♪♪♪
— お心に感謝します —

認識音がした。

僕は目の前のゲートボールに
手を伸ばした…。

伸ばした手の先から
ゲートボールに
吸い込まれて行く…。

一瞬…
パール一色になった…視界…。

「…ん…」

…鏡面に…。
リバースしてゆく…。
…色から…色…。

交差する…。
…僕から…。
僕…。

「…ふ…」

やがて
体はC-1に抜けた…。

♪♪ ……Happy are tho … ♪♪
♪♪ ……reje … the… vice …… ♪♪
♪… who … no … follo … exam … ♪
♪♪ …… reje … the … vice …… ♪♪

「……」
C-1は完成区。

すべての色が
すべての被造物に表現されている。

もちろん人間も
ひとつの被造物として
色合いの調和が図られている…。

頭髪の色が
クラス毎に決まっているのだ。

クラス
EDEN神の存在を。
どれだけ実感できるか
…によって分けられるもの。
つまり
五感で認識できない存在を
意識の中で
どれだけ強く認知できるか。

神の発信に対して
どれほど多くレスポンスできるか
によって分けられるものである。

その検査は
ヒーリングセンターで
年2回行われ
検査の結果によって
クラスが決まる。

検査項目は
色感検査と音感検査の二つである。

色感検査は色識別検査である。

出題者は
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の
いずれかの波長を
受験者に対し
10分間のうちに70回発信する。

受検者はそれを受信し
即時解答してゆく
というものである。

正解率によって
色感クラスが決まるが

そのクラス分けは
赤→橙→黄→緑→青→藍→紫の
7クラスであり
クラスの色は
そのまま頭髪の色となる。

クラスのうち
赤と橙はロア・クラスと呼び
主に肉体労働が
権利付けられており
現在その人口は最も多い。

黄、緑はミッドル・クラスと呼び
教育や治安などに関わる労働が
権利付けられている。

青、藍は アッパー・クラス と呼び
芸術家やシステムエンジニア
ヒーラーなどとしての労働が
権利付けられている。

また紫は
アッパ・モスト・クラス と呼び
EDEN神から
エデンを管理統括する
数々の特権を義務付けられている。

ヒーリングセンターでの出題も
このアッパ・モスト・クラスに
よって行われる。

その他
アッパ・モスト・クラスは
ヒーリングセンターでの
感覚異常者及び〝汚れ〟の治療や
スクールでの
教育カリキュラムの設計
生産物の徴集と配布などを行う。

またクラスは
音感検査によって
さらに細かく分けられる。

音感検査は音識別検査である。

出題者は
C、D、E、F、G、A、Bの
いずれかの波長を
受験者に対し
10分間のうちに70回発信する。

受検者はそれを受信し
即時解答してゆく
というものである。

正解率によって
音感クラスが決まるが

そのクラス分けは
C→E→G→Bの4クラスであり
クラスの音は
そのまま声の高さとなる。

これら色感検査と
音感検査によって
出来るクラス分けを
以下の表に示す。

表

この内
赤・C、赤・E、橙・Cは
感覚異常者として
ヒーリングセンターで治療を
受ける権利がある。

それ以外の
ロア・クラスと
ミッドル・クラス及び
アッパー・クラスの青・Eには
スクールにて教育を受ける
権利がある。

その他のアッパークラスには
特にそういった権利は設けない。

よって、配布されるPC
及びDVDで
独自学習することを
認めるものである。

『知識』より

つまり
個人の五感も含めて
世界のすべての調和と協調が
EDENによって
保たれているのだ…。

…それが…。
エデン……。

「……」

ふと目線を上げると
花生(かせい)の看板が
目にとまった…。

店の前で
親子連れらしい二人が
こちらを見ている…。

僕は
いつもの癖で目を伏せた。

だが…。

おにぃちゃぁぁぁ~んっっ。

「……」

ばたばたばたばたばた。

子供が僕めがけて
走りよってくる気配がした…。

「待ちなさい。ゆっくんっ」

母親らしい人が
子供の後から声をかけている…。

だが子供は
僕のすぐそばまでやって来くると
僕の顔の真下にもぐりこみ
そして話し掛けてきた。

「おにいちゃん」
「……」
「おにいちゃん。おめめの色
 違う、ね? それは、何色?」
「……」

こんな時
嫌でも突きつけられる…。

「ね?それは、何色?」
「……」

普通、瞳の色は
自分の色感クラス
(つまり頭髪の色)よりも
下のクラスの色になる。

だが。
僕の場合、なぜか瞳の色が
アッパ・モスト・クラスの色に
近い紫色…(つまり一般には
ない色)なのだ…。

だから。
こんな風に聞かれることは
しょっちゅうで。

でももし
何色かを答えれば
次にはかならず
「どうして?」…と聞かれるから。

だから
もうこんな時は
ダンマリを決め込んで…。

「ねぇ。おにぃちゃん。
 おしえて?
 僕、その色、知りたい」
「……」
「ねぇねぇ…」

大人なら
黙っていれば
大抵は諦めてくれるけど…。

「ねぇねぇ。おにぃちゃん」
「……」
「ねぇねぇ…」
「──」

ぱたぱたぱた…。

すると。
さっき子供の後ろから
声をかけていた女性…が
追いついて来て
僕に近づくなり言った。

「…ごめんなさい。
 この子ったら…。
 誰にでも構わずに
 話し掛けて…」
「……」

それから改めて僕を見て…。
「まあ…」
…と
少し驚いたような声を出した。

そして…。

「ずいぶん綺麗な
 瞳の色なんですね。
 紫色…?より
 少し淡いような…?」
「……」

「ブルーの頭髪は
 クリエーターの方?
 それとも
 エンジニアの方かしら?」
「……」

「本当。素敵な色ですこと…」
「……」

好奇心があるのは大人も同じだ。
きっかけさえあれば
いくらでも聞いてくる…。

だが僕は
声にして答えるわけにはいかない。

なぜなら
この親子は
音感Cクラス…。

じゃら…。

僕は
声で答える代わりに
クラスチップを見せた。

「あ、まあ。まあごめんなさい。
 Bクラスの方でしたのね?
 まあ、それじゃあ。
 直接お話はできないわ…。」
「……」

女性は子供に向き直って言った。
「さあ、ゆっくん。
 ごめんなさいして行きましょう。
 おにいさんが困ってらっしゃる」
「どうして、母さま。どうして?」

「あら、学校で習ったでしょう?
 Bクラスの方とCクラスの人が
 直接お話すると
 整わない和音に
 なってしまうって。
 それは神様に
 嫌われてしまうのよ?」

「あー、そっかぁ。
 神様に嫌われてしまうんだね?」
「そうよ。
 だから、行きましょう…。
 ごめんなさいね。
 お引止めして…」

子供を納得させると
女性は再び僕を見て
ぺこりと頭を下げた。

「……」

僕は少しだけ首を振って
歩き出した…。

後ろで親子が
僕を見ている気配がした。