Act02: 神威: section03

欠片

歩きながら。
つらつらと眺める風景…。

EDEN / B-3

僕が住んでいるこの区画は
現在はまだ
整備の途中段階で

街並みの色合いが
※1BG2値トーンだけで
構成されている。

時折
そのグラデーションに垣間見る
…エ・メ・ラ・ル・ド…。

何かが…。
…過(よ)ぎる…?

「……」

〝記憶〟?

「……」

エデンの住人には
世界がエデンになる以前の
記憶がない。

それは
エデンで生まれ育った者には
もちろん。

僕らのように
〝神の日〟を
生き残ったとされる者にさえ…。

神の日
1989年8月15日。

それは
EDEN神が世界を支配する前の
人間が
霊長類最後の進化種族として
君臨していた時代…が
EDEN神の意志によって
打ち崩された日。

その日には
大きな地揺れと
大きな洪水と
大きな火が天地を引き裂き
そして全てが崩れ去った…。

EDEN神の意に添わぬ存在は皆。
(個人としての人も)
(社会の体制も。建造物も)
(個人の中の記憶も)
(人による 業(わざ)は…)
EDEN神の聖なる火によって
焼かれた。

世界の
個人の
過去としての忌まわしい記憶は
神の日に消滅した。

残された人々は空白になり
EDEN神は
人々に楽園を与えた。

人々はそれをエデンと呼び
そこでEDENを学び
幸福な時を送るものである。

そうして
やがて
全なるEDEN神における
業の完了の日を迎えた時

人々はかつてない至福を
得るのである。

※2知識』より

つまり。〝神の日〟以前には
人間達が好き勝手にやっていた
時代があって。

それは
神の日に滅ぼされて。

代わりに
EDEN神がすべてを支配する
世界が出来た。

それが
今のエデンである
ということなのだが…。

その神の日に
〝記憶〟とやらを消されたらしく。

その神の日のことも
エデン以前の記憶も
僕たち
(エデンに住む人たち)には
ないというわけだ。

それは
エデンで生きてゆく上で
過去の記憶は忌まわしいとされ

不必要であり
邪魔であるから…というのが
その理由で…。

だから。

〝記憶〟をすっかり忘れ去り
EDENの知識で満たされた
新たな人格を身に付ける…。

それこそが。
〝幸福への道〟
…と言われている…。

それでも
人の遺伝子の中には
その神の日(火)にすら
消し去られなかった
深い部分があって。

それが
何かの折りにふと
現われることがあるらしい…。

それは
エデンにおいて
〝 汚れ〟と呼ばれて
忌み嫌われる。

だから
〝汚れ〟が現われた(過去の
記憶が蘇った)者…は
即刻ヒーリングセンターに出向いて
治療を受けなければならない。

だが
やがてはその〝汚れ〟も
遺伝子の中にすら
現われなくなって。

そうすれば
本当の意味で
人世(ひとよ=エデン以前の
人間が世界に君臨していた
世の中)が終了し。

それが
エデンの完成となり。

またそれが
全なるEDENにおける業の完了
となって。

人々は
今よりもっと
幸福になると言われている…。

「……」

僕はまだ一度も
月に一度の健康診断でも
〝汚れ〟と言われたことは
ないのだが…。

ふと過ぎる…。
…絵…とまでいかない…。
色の欠片と。
…音の欠片…。

「……」

♪♪… and … ive … the …♪
♪…… Sin … to the … fai … ful …♪

いたるところで聞こえる
hymn…。

…hymnを聞くと
僕の中の
色と音の欠片が
クリアされるような気がする…。

…だから…それは…。
つまり…。

♪♪…and …ive…tha…♪
♪♪ Let … co……with th…ks…♪

…ああ…。
だめ…だ……。

思考が…。
…途切…れ…る…。

「…ふ…」
短く息を吐く…。

…考えても…。
そう…だ…。
…辿って…どうする…。

そう…だ…。
辿って、もし…。
…それが…〝記憶〟だったら…。

それは…。

〝汚れ〟になるだけ…。

だから。

わからない方が…。
辿らない方が…。
…いい……。

「……」

僕は
もう一度短く息を吐き
うつむき加減の視点を上げた…。

その僕の視界に
エデンの象徴
〝そびえ立つ翠壁〟が映った。


※1 BG2値トーン … ブルーとグリーンの2色
※2 『知識』 … EDEN で配布される参考書のようなもの